Ⅳ章-1 

大阪地裁20224/21判決[1]解説

~画像所見や肺機能検査の結果等を実質的に検討し、障害厚生年金3級相当と認めた判決~

弁護士 長岡健太郎(会員外)

目次

1 事案の概要

2 国の主張

3 本件訴訟における問題の所在

4 判決の前提となった、協力医より得られた医学的知見

⑴ 一般的知見

⑵ 協力医が原告を診察し、作成した意見書の概要

5 判決の内容

⑴ 障害等級の認定方法について

⑵ 原告の障害の状態についての検討

ア 動脈血ガス分析値

イ 予測肺活量1秒率

ウ その他の検査成績等

エ 原告の生活状況等

オ 総合評価

6 判決の評価

 

 

1 事案の概要

  本件は、肺疾患(CPFEすなわち気腫合併肺線維症)の男性が、障害認定日から約5年9か月後に障害認定日による裁定請求(障害基礎年金及び障害厚生年金の支給を求めるもの)をしたところ、障害認定日における障害の状態を認定することができないとしてすべて却下されたため、かかる却下処分の取消等を求めた訴訟事案である。

  原告は、昭和44年11月生まれの男性である。15歳頃(昭和60年頃)から喫煙するようになり、40歳頃(平成21年11月頃)に禁煙するようになるまで、1日に40本程度のたばこを吸っていた。

原告は、携帯電話のショップを経営していたが、26歳頃(平成7年)、慢性的に咳込む、早歩きすると鼓動を感じるなど、肺に異常を感じるようになった。これらの症状は喫煙が原因であると考え、禁煙をしたこともあったが、症状が改善したために3か月程度で再び喫煙をするようになり、結局、禁煙は長続きしなかった。

  その後も仕事を続けていたが、平成21年頃には、店の運営を従業員に任せ、原告は毎日電話やメールで報告を聞き、必要な指示をするだけになった。

平成21年10月30日、原告は車を運転中、咳込んでしまい、ブレーキをかけるのが遅れ、前方を走行する車に追突する事故を起こした。これを機にA病院を受診することとし、翌31日が初診日となった。医師は、原告に対し、すぐに禁煙するよう指導した(原告はこれに従い、禁煙した)。胸部CT検査により、原告の右肺上部に大きなのう胞(分泌物が袋状に貯まる病態)の形成(気腫化)と既存肺の線維化(肺胞同士の間に存在する間質組織(肺胞を支える結合組織)が肥厚して固くなること)が認められたため、原告はCOPDと診断された。医師は、原告に対し、肺の4分の3が機能していないと指摘した。

  原告は平成22年2月16日以降、B病院へ通院し、平成23年1月11日にはB病院で胸部CT調査を受けた。

  その後、平成26年7月には携帯電話のショップを手放し、療養に専念するようになった。

  平成28年3月になり、医師から障害者手帳の交付申請を勧められ、手帳の申請をした。同じ頃、医師から在宅酸素療法を勧められ、同年8月より在宅酸素療法を開始した。

  その頃、障害基礎年金及び障害厚生年金(以下単に「障害年金」という)の申請もできると知り、平成29年1月25日、肺疾患により、障害年金を申請(主位的には障害認定日による請求、予備的に事後重症による請求)したところ、事後重症による請求のみ認められた。

これだと平成29年1月からの3級の障害厚生年金の支給しか認められないが、障害認定日(平成23年4月30日)からの支給を求めたいと考え、また等級についても不服であるとして、審査請求を行った。

これに対し社会保険審査官は、本件裁定請求日における原告の障害の状態は2級に該当すると認められるとして、事後重症請求の点につき一部取消裁決がなされた(その後、平成29年1月25日(本件裁定請求の日)を受給権発生日として、2級の障害基礎年金及び障害厚生年金を支給する旨の裁定がなされた)。

障害認定日請求については審査請求では認められなかったため、原告は再審査請求までしたが棄却され、訴訟をすることにした。

 

2 国の主張

被告国からは、各種検査数値等を考慮しても、障害認定日のおける原告の障害の状態が障害等級2級及び3級に該当するとは認められないとの反論がなされた。具体的には以下の通りである。

 ・ 動脈血ガス分析値は、障害の程度の判定に当たって、極めて重要な情報であるにもかかわらず、原告は、本件障害認定日当時、動脈血ガス分析を実施しておらず、動脈血ガス分析値が不明である。

 ・ 原告の本件障害認定日頃における予測肺活量1秒率は、約39%であり、正常であると認められる。

 ・ (原告が、SpO2の値が動脈血ガス分析値に比例するため、SpO2nによる酸素濃度測定で血液ガス分析の代用ができると主張したのに対し)SpO2の測定は、指に機器(パルスオキシメーター)をはめて光を用いてされるため、血中に何らかの吸光物質が存在したり、測定部位に色素沈着やマニキュアがあったりすると誤差が生ずることもあるため、正確に測定することは困難である。

   また、本件障害認定日の約1か月後である平成23年5月17日における原告のSpO2の値は94%であり、これを動脈血酸素分圧(PaO2)に換算した場合には約70Torrを超え、正常な値である。

 ・ 原告は、本件障害認定日当時、在宅酸素療法を受けておらず、内科的治療と経過観察を受けていたに留まる。

原告は、平成23年4月30日当時、B病院へ通院していたが、障害年金の裁定請求に備えた検査(動脈血ガス分析等)は受けておらず、障害状態の立証ができるかが問題となった。

この点につき、平成23年4月以前の画像データやカルテ等により、障害認定日における障害の状態が立証できると主張した。

また、原告の病名がCOPD、肺線維症、肺気腫など、変遷しており、障害年金の請求の際の基準傷病をどう理解するかも問題となった(協力医の意見を聞いて判明したのは、原告は肺気腫、肺線維症、喫煙に伴う気管支の炎症など、複数の呼吸器疾患にり患しており、このうちのどの病態に着目するかにより、付けられる病名が異なり得るということである)。

 

3 本件訴訟における問題の所在

 ⑴ 呼吸器疾患にかかる障害認定基準では、動脈血ガス分析値や予測肺活量1秒率がかなり重視されており、その反面、画像所見や他の検査成績等(SpO2値など)についてどのように評価するか、明確な基準がない。

本件でも動脈血ガス分析の検査数値がないことが問題視されてきた。

しかし、動脈血ガス分析のための検査設備を持たない病院も多く、また検査実施には患者の痛みを伴うことから、動脈血ガス分析が実施されないケースが多い[2](その変わり、日常の診察の場面ではパルスオキシメーターを使って簡易に測定できるSpO2値がよく用いられている)。とりわけ、障害認定日より相当期間経過後に障害認定日請求を行う場合、障害認定日付近で動脈血ガス分析を行っていることは稀である。このような現状で、動脈血ガス分析値を必須とすることは、肺疾患による障害年金の請求を著しく困難にする。

 ⑵ 本件では、障害認定日付近では原告の通院が途絶えており、障害認定日における原告の障害の程度を証明し得る資料は必ずしも豊富ではなかったが、障害認定日の約3か月前に撮影された胸部CT画像等があったことから、協力医(原告訴訟代理人が以前、原爆症認定訴訟を行っていた際に協力いただいていた医師)に上記画像を含む一件資料を確認いただき、意見交換を行った。

そうしたところ、画像所見を踏まえ、原告は気腫合併肺線維症(CPFE。肺気腫と肺線維症が合併した病態であり、比較的新しい疾病概念である)[3]であることなど、肺疾患に関する多くの医学的知見をいただいた(協力医より得られた医学的知見については、後述4で述べる)。

これに力を得て、その後も何度も当該協力医と意見交換を行い、それを踏まえて準備書面を作成し、また協力医の意見書を作成して甲号証にし、更に協力医の証人尋問を実施した。証人尋問は、ラウンド法廷でスクリーンとプロジェクターを用意し、実際に画像所見を裁判官に見てもらいながら行った。事前にラウンド法廷で上映テストをする機会を設けていただくなど、裁判所もこのような形での尋問実施に協力的であった。

その結果、後述5で述べる通り、判決では、障害認定基準において重視されている動脈血ガス分析値や予測肺活量1秒率だけでなく、胸部CT画像や肺機能検査の結果、気腫合併肺線維症やCOPDに関する医学的知見等を踏まえて、障害認定日当時の原告の肺疾患の状況について、適切に認定がなされている。

 

4 判決の前提となった、協力医より得られた医学的知見

 ⑴ 一般的知見

  ア 肺気腫

    肺気腫とは、終末細気管支より末梢の気腔(肺胞)がそれを構成する壁の破壊を伴いながら不可逆的に拡大した肺で、明らかな肺線維化病変はみられないものをいう。肺気腫は、気流閉塞の原因となる。

    肺気腫においては、気流閉塞により、酸素と炭酸ガスの交換が困難になる(拡散障害)。その結果、低酸素血症(動脈血中の酸素が不足した状態)を来し、特に労作時における呼吸困難の症状が生ずることがある。

  イ 肺線維症

    肺線維症とは、肺胞同士の間に存在する間質組織(肺胞を支える結合組織)が肥厚して固くなる(線維化)病変である。

    肺線維症は、肺胞の収縮力が低下し、酸素と炭酸ガスの交換の換気が困難になる(拘束性換気障害)。また、肺胞を取り巻く毛細血管と肺胞細胞との間隔が広くなることにより、酸素と炭酸ガスの交換も困難になる(拡散障害)。

  ウ COPD(慢性閉塞性肺疾患)

    COPDは、たばこの煙を主とする有害物質を長期に吸入、ばく露することで生じた肺の炎症性疾患であり、その影響によって起こる気流閉塞を基本病態とするものである。

    COPDによる気流閉塞は、末梢気道病変(末梢気道の気管支が炎症を起こし、気道壁が肥厚、狭窄して、粘液が貯留する)と気腫性病変(肺胞壁が破壊されて肺胞同士の融合が起こり、気腔が拡大するとともに、肺の弾性収縮力が低下する)が複合的に作用することで引き起こされる。

    COPDの症状としては、慢性咳漱(せき)、喀痰(たん)、労作時呼吸困難であり、労作時呼吸困難が最も多い主訴である。COPDの症状が進行すると、樽状胸郭、呼気延長、口すぼめ呼吸、肺過膨張といった特徴的な身体所見が出現する。

 呼吸機能検査において、閉塞性換気障害(1秒率の低下)や拡散能力の低下がみられる。気流閉塞がある場合には、フローボリューム曲線で下に凸のフローパターンがみられる。

エ CPFE(気腫合併肺線維症)

    CPFEは、肺気腫を合併した特発性肺線維症である。主に画像所見により診断がされる。CPFEにおいては、高分解能CT(HRCT)画像の所見として、①上肺野優位の肺気腫及び②下肺野優位のびまん性の肺線維症を伴う間質性病変の併存が認められる。

    CPFEは、①肺の線維化により通常は肺活量が減少するが、例えば上葉の肺気腫により肺の過膨張所見がみられる場合には、肺活量は増加することがあり、これらが影響し合って、肺活量が保たれることがある。また、②気道領域においても、線維化に伴う牽引性気管支拡張が閉塞所見を相殺し、1秒量、1秒率の低下も生じにくい。上記①、②のために、CPFEは、肺機能検査では異常を示さないことがある。そのため、CPFEは、肺機能検査で異常を示さない場合であっても、拡散障害(酸素と炭酸ガスとを交換する能力の低下)を生じ、高度な呼吸困難が認められることもある。

    CPFEにおいては、肺気腫及び肺線維症のそれぞれに由来する拡散障害により、労作時呼吸困難が生ずる。労作時においては、SpO2の値は大きく低下する。

    CPFEは、不可逆的に進行し、その予後は不良である。

    気腫性病変の広がりの程度と拡散能力の低下との間には優位な相関関係がみられる。即ち、気腫性病変が広がるほど、拡散能力は低下し、低酸素血症による呼吸困難の症状が重くなる傾向がみられる。

 ⑵ 協力医が原告を診察し、作成した意見書の概要

  ア 平成23年1月11日撮影の本件CT検査画像所見

    原告の肺上野は血管に乏しく、特に特に右肺のう胞のほとんどが気腫化している。また、胸郭の壁付近において、間質組織の線維化が認められる。

    原告の右肺上野及び右中肺野ののう胞のほとんどが気腫化している。原告の左肺上野及び肺中野ののう胞は一部が気腫化している。

    気管支が肥厚し、線維化している。

    全体として、重度の気腫化と軽度の線維化が認められる。

  イ SpO2値について

    SpO2と動脈血ガス分析値との間には相関関係がある。

    原告のSpO2値は、平成22年2月9日において91%、同月18日において93%と低い値である。これらの値は、診察時に安静にしている際の数値であり、原告の当時のCPFEの状態からすれば、労作時のSpO2値はより低かったと推定される

    原告のSpO2値である91~93%は、動脈血ガス分析値に換算すると、63.6Torr~70.4Torrに相当する(なお、61Torr~70Torrが軽度異常とされる)。

  ウ 本件障害認定日当時の原告の呼吸不全の症状の程度

    原告は、本件障害認定日当時、慢性的な呼吸不全の状態であり、その程度は相当程度に重い状態にあったと考えられる。

   

5 判決の内容

原告は、2級相当とは認められないが、3級相当と認める、ということで、障害厚生年金を支給しないとする処分を取り消す、という内容であった。裁判所の判断の概要は以下の通りである。

 ⑴ 障害等級の認定方法について

   障害認定基準は、各種障害に関する医学的知見を総合して定められ、その内容も、障害の部位や機能ごと、あるいは疾患ごとに、日常生活における支障の違いを考慮しつつ、障害の程度に応じた障害の状態を具体的に示しているものであり、合理的なものということができるとした。

  その上で、呼吸器疾患による障害の状態の具体的な認定は、認定基準に従い、自覚症状、他覚所見、検査成績(胸部X線所見、動脈血ガス分析値等)、一般状態、治療及び病状の経過、年齢、合併症の有無及び程度、具体的な日常生活状況等により総合的に認定するものとし、このうち、呼吸不全の障害の程度の判定は、障害認定基準A表の動脈血ガス分析値を優先するが、その他の検査成績等も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定することになるとした。

 ⑵ 原告の障害の状態についての検討

  ア 動脈血ガス分析値

    原告は、本件障害認定日当時、動脈血ガス分析値の検査を実施しておらず、そのため、本件障害認定日当時の原告の動脈血ガス分析値は不明である。

    もっとも、判決は、原告が、本件障害認定日当時、動脈血ガス分析値の検査を実施しておらず、そのために当時の原告の動脈血ガス分析値が不明であることが不合理であるということはできないから、このことをもって、原告の障害の程度が軽微であったと推認することはできないとした。

  イ 予測肺活量1秒率

    原告の予測肺活量1秒率は、本件障害認定日の約2か月前である平成23年3月8日において52.2%~55.8%、本件障害認定日の約2週間後である同年5月17日において56.1%~59.4%であり、認定基準においては正常と判断されるものである。

    もっとも、原告は、本件障害認定日当時、CPFEにり患していたところ、CPFEは、肺機能検査で異常を示さない場合であっても、拡散障害(酸素と炭酸ガスとを交換する能力の低下)を生じ、高度な呼吸困難が認められることもある疾患である。なお、肺機能検査報告書の強制呼出曲線は、V.50(肺中の空気量を50パーセント吐き出した状態)から急激に下に下がっているのであるから(下に凸になっている。即ち、原告の排気量は、V.50以降、急激に流量が下がっていた)、原告の肺機能検査の結果に異常がなかったとはいえない。

    そうすると、本件障害認定日頃の原告の予測肺活量1秒率が認定基準において正常と判断される数値であったことをもって、原告の障害の程度が軽微であったと推認することはできない。

  ウ その他の検査成績等

(ア)本件CT画像所見から、本件障害認定日の約3か月前である平成23年1月11日当時の原告のCPFEの程度は、肺気腫については重度、肺線維症については軽度であったことを読み取ることができると認められる。そして、CPFEにおける肺気腫病変は、不可逆的に進行するから、本件障害認定日当時の原告のCPFEの程度は、上記の平成23年1月11日当時と少なくとも同程度であったと認められる。

     また、肺気腫等の気腫性病変の広がりの程度と肺の拡散機能の障害の程度との間には優位な相関関係がみられるから、本件障害認定日当時の原告の拡散能力は、相当程度低下していたと推測される。

 (イ)SpO2値

     SpO2値は、動脈血ガス分析値と相関関係があるところ、本件障害認定日前後の原告のSpO2値は、91%~94%であり、これを動脈血ガス分析値に換算すると、約64Torr~約75Torrである。これは、認定基準において、軽度異常又は正常と判定されるものである。

     なお、CPFE患者のSpO2値は、労作時においては大きく低下するから、原告の労作時のSpO2の値はより低い値であったことがうかがわれる。

  エ 原告の生活状況等

原告の本人尋問や原告の母の証人尋問の結果を踏まえ、原告は平成21年10月から同年11月頃においては、激しい咳により交通事故を起こし、葬式の参列中には咳が止まらず、壁につかまりながら歩くなどの状態であったものの、禁煙を開始してから症状は緩和し、原告自身も楽になったと感じるようになり、平成23年頃においては、自宅でパソコンや電話を使用して仕事ができる程度の状態であったこと、原告は、平成23年頃においては、1人で入浴することができず、着替え、洗面、トイレへの移動等を手伝ってもらうこともあったことが認定された。

その上で、これらの事実に照らせば、原告は、本件障害認定日頃、日常生活に一定の支障が生ずる状態であったと評価された。

オ 総合評価

    以上によれば、①本件障害認定日当時の原告のCPFEの程度は、重度の肺気腫と軽度の肺線維症を合併した状態であり、これに起因して、原告の拡散能力は、相当程度低下していたと推測されること、②本件障害認定日当時の原告のSpO2ケ値を動脈血ガス分析値に換算すると、日によっては軽度以上に相当する数値となることもあったことが認められる。これらの事情に加え、③協力医意見書において、原告の本件障害認定日当時の呼吸不全の状態は相当程度に重い状態にあったとの意見が示されていること(協力医意見書のうち同意見は、本件に関する医学的知見と整合しており、本件CT検査画像所見から認められるCPFEの程度、協力医の知識・経験等に照らせば、十分に信用することができる)、④本件障害認定日当時に原告を直接診察した医師が、平成29年10月医3日付の書面において、原告の本件障害認定日頃の障害の状態は、「歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居している者」であったと推定されるとの意見を述べていること、⑤本件障害認定日後の原告の症状の推移等を総合すれば、原告は本件障害認定日当時、CPFE(特に重度の肺気腫化)に起因して肺の拡散能力が相当程度低下しており、労作時に低酸素血症を来し、労作時に相当程度の呼吸困難を生ずる状態であったことが推認されるとした。

    他方で、本件障害認定日当時の動脈血ガス分析値が不明であること、本件障害認定日当時、肺機能検査における予測肺活量1秒率は大きな以上を認める数値ではなかったことが、原告の障害の程度が軽微であったことを推認させる事情ではないとした。

    そうすると、原告は、本件障害認定日当時、労作時に相当程度の呼吸困難を生ずる状態にあったと認められるから、本件障害認定日当時の原告の障害の状態は、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度に至っていたものというべきであるとし、3級に該当する程度の障害であると認めた。

    一方で、①原告は本件障害認定日頃、1人で入浴することは困難であったが、食事、洗面、トイレへの移動は基本的に1人で可能であり、また、自動車を運転することも可能であったこと、②自宅においてメール、電話等を使って仕事をすることが可能であったこと等の事情に照らせば、原告は本件障害認定日当時、CPFEによる労作時呼吸困難の症状により、日常生活に一定の制限が生じていたと認められるものの、その制限の程度が著しかったか、または著しい制限を加えることが必要な状態に至っていたと認めることはできないとし、2級該当性は認めなかった。

 

6 判決の評価

 判決内容を見ると、協力医の意見書及び証言が大きな力を発揮している。

  上述の通り、協力医には、訴訟の初期から何度も意見交換の機会を設定していただき、それを踏まえて準備書面を作成し、また協力医の意見書を証拠提出するのみならず、更に協力医の証人尋問を実施し、意見書の内容について、実際に裁判官に画像を見てもらいながら、意見書の内容をきちんと理解してもらうことを心掛けた。

尋問では、裁判官から補充質問も熱心になされ、裁判官も協力医の意見に関心を持ち、重要視していることが見て取れた。

その結果、判決では、CT画像や肺機能検査の結果、気腫合併肺線維症やCOPD等の肺疾患に関する医学的知見を踏まえて、障害認定日当時の原告の肺疾患の状況について、適切に認定がなされている。

  障害認定基準では、動脈血ガス分析値や予測肺活量1秒率がかなり重視されており(その反面、画像所見についてどのように評価するか、明確な基準がない)、本件でも動脈血ガス分析の検査数値がないことが問題視されてきたが、このような障害認定実務の運用のあり方は、最新の医学的知見を十分反映していないものであるし、実際の肺疾患にかかる臨床のありようにも合致していないように思われる。そのような中、裁判所はそれ以外の検査数値や画像等を実質的に検討、考慮して原告の障害の状態を認定している。

本判決は、障害認定基準を前提とした判断ではあるが、裁定請求段階の実務においては、本判決のように画像所見や肺機能検査の結果、SpO2などについて、肺疾患にかかる医学的知見を踏まえた実質的な検討はほとんど行われず、診断書に記載された動脈血ガス分析値、予測肺活量1秒率等の検査数値が重視されているのが実情であると思われる。そうであれば、本判決が今後の肺疾患にかかる障害認定実務に与える影響も大きいと思われる。

  なお、当方からは控訴せず、国からも控訴なく、地裁判決が確定した。

  判決確定後、原告に対し、本件障害認定日を受給権発生日とする障害厚生年金3級の裁定がなされ、年金が支給された(消滅時効の関係で、本件裁定請求日から5年分について遡及して支給がなされた)。

  この事件の原告訴訟代理人は、藤原精吾、長岡健太郎の両弁護士が務めた。

 

 



[1] 裁判所ウェブサイト掲載

[2] 呼吸器内科医が執筆した文献でも、「COPDの患者さんの全例に動脈血液ガス分析を行う必要はありません。結構痛いですしね…。在宅酸素療法(HOT)が必要になるだろうと想定される場合、あるいは身体障害者手帳の申請を行う場合に動脈血液ガス分析が必要になります。明らかな慢性呼吸器疾患の場合、実は安定期には動脈血液ガス分析はあまり役に立ちません。SpO2でだいたいのPaO2が推測できますから」とされている。倉原優「COPDの教科書―呼吸器専門医が教える診療の鉄則」(医学書院・201627頁。

[3] 気腫合併肺線維症(CPFE)について、前記脚注1の文献では「呼吸機能検査で同定しにくいことがある。線維化の合併によって気流閉塞がマスクされるため、評価が困難なことがある」とされている。同文献49頁。